二十九日目



朝起きると、岡山駅から電車で宇野港まで行き、そこからフェリーで直島を目指す。

フェリー乗り場にはもう人だかりができていて、

一見しただけでも様々な国籍の人間がいた。

みな小奇麗な恰好をしていて、旅行者であっても、

東アジアを旅するバックパッカーのような身なりの人間はいない。

アートの島ということもあってか、

ベレー帽をかぶった人間が異様に多い。

私が知らないだけで、

島でベレー帽を争奪するアートバトルが繰り広げられているのかもしれない。

フェリーに乗っていた時間は短かったが、着いたころにはもう昼前だった。

この日の予定は、島の奥にある地中美術館を始めとして、

そこから残りの美術館を鑑賞しながら港へと戻ってゆく形になる。

その過程で、道程の中ほどに点在する「家プロジェクト」を訪れるつもりだった。



個々の展示や作品はとても興味深いものばかりで、

話し始めるといつまでたっても直島から進まなくなってしまうので、

できるだけ手短に書いていく。



現代社会への風刺というような政治的な作品よりは、

社会と個人の在り方を見つめなおす、というテーマの作品が多かった様に思う。

絵画を鑑賞する、いわゆる一般的な芸術鑑賞という枠組みを超えて、

作品と対峙し、その作品世界を心ゆくまで体験することができる贅沢な島だった。

決められた島の順路があるわけでなく、

何から見るか自分で自由に選べるという気楽さも心地よかった。

帰り道、もう陽が傾きかけているころ、

地元の人間がやっているカフェのテラスで、

ある外人が海を見ながらコーヒーを飲んでいた。

芸術に囲まれながら、何をするでもなく、ただコーヒーを楽しむ。

直島は、そんな贅沢な時間の使い方ができる素敵な場所だった。



「家プロジェクト」もすべて行きたかったが、

時間が無くなってしまってすべて回り切れなかった。

前日にマスターベーションをした疲れで起きるのが遅くなってしまったのが悔やまれた。



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