七十二日目


映画「武器人間」を鑑賞した。
これは私とは別のクソ映画ソムリエが推薦してくれた怪作である。


簡単にあらすじを紹介しよう。
第二次世界大戦末期、
とある偵察隊は救助を要請する電波を受信する。
味方の救援へ向かうが、そこに待っていたのは、
恐るべき狂気の産物だった……。


物語は、この偵察部隊がビデオカメラで記録していた、部隊の日常風景から始まる。
始まったはいいが、ずっとそれが続く。
武器人間?当分出てこないよ?
物語の登場人物がカメラで記録していた衝撃の物語(という体裁)なので、
カメラがぶれるぶれる。
ナチスオブザデッドでもそうだったが、
そういうところはリアリティを求めなくていいから。


部隊が救援信号を受信してしばらくのち武器人間らしきものが登場する。
チラリと経過時間を見ると、30分経っている。
その間ずっと、部隊の内輪もめであるとか、
隊員の自己紹介だとか、
なんかとりあえず第二次世界大戦感出してみましたみたいな、
散発的な戦闘シーンを見せられているのである。


……正気か?
1.5倍速くらいで鑑賞しているから、
体感でせいぜい10分と少しだが、それでも長い。
これは恋愛映画やヒューマンドラマではない。
ホラー映画、もしくはパニック映画なのである。 
開始して30分も経てば、
もう黒人の一人や二人くらい死んでいなければいけない頃合いである。
だというのにこの映画は、
せいぜい骨が出てきたくらいである。


さて、30分かけて武器人間が満を持して登場したわけだが、
ここから物語は加速してゆく。
人の消えた礼拝堂、恐るべき研究、
そして自分たちがここに来ることになった本当の理由……。
前半部分があまりにダメダメだったので退屈していたのだが、
やはり人がテンポよく死に始めると、
人間は現金なもので、さきほどまでの退屈はどこへやら、
この映画を楽しみ始めた自分がいるのである。
次々と襲い掛かってくる武器人間たち。
潜水服にトゲトゲがついた武器人間、
頭がプロペラでできている武器人間。
手がはさみになっている武器人間、


この接近戦しか考えていない感じがイイ。
戦争に勝つためには銃やミサイルなんかいらなかったのさ、
そう、武器人間さえいればね。


武器人間と戦うゆかいな仲間たちがポロポロ死んでゆく様も楽しめたのだが、
この映画の本当の魅力は武器人間工場潜入後である。
人間の尊厳をないがしろにした研究、
命を命と思わない、身の毛もよだつ、肉体と精神への冒涜。
吐き気を催すような、むき出しの狂気。
前半のぬるい銃撃戦がおままごとに感じられるような、
ブッ飛んだシーンがこれでもかと繰り出される。
羊たちの沈黙に通じるようなシーンもあり、
単純なパニック映画と断じるには躊躇してしまうような暗さがある。


正直、前半と中盤を切り捨てて、
この終盤をベースに物語を組み立てたら、
もっと素晴らしい映画になっていたのではないかと感じさせられた。
前半のうんことクソを足して二で割ったような出来とかけ離れている、魅せる内容だった。
「武器人間」、これは、煮ても焼いても食えないようなどうしようもないクソ映画ではなくて、
クソ映画にもなり切れず、
かといって名作のサイコサスペンスにもなり切れなかった、
悲しき映画である。


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